テレビ批評的視聴記 - 2006/12/26

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2006年12月26日(Tue)▲ページの先頭へ
N・H・Kにようこそ!(最終回)

【あらすじ】自殺しようとしている中原岬を追って石濱岬の森にやって来た佐藤達広。たった5分違いで到着した事に岬は驚く。だが自分が居ると皆が不幸になる、両親の死、二番目の父の不幸、伯母と伯父の不仲など全部自分のせいだと話す。
「私は不幸を呼ぶ最低ダメ人間です。この世に要らない人間なんです」

佐藤へのプロジェクトは、自分を必要としてくれる人間を作るためのものだった。だがそれも失敗したから死ぬと言う。佐藤は思いつく限りの言葉を発する。
「生きてれば良い事もあるさ。伯父さんや伯母さんが悲しむぞ。俺には岬ちゃんが必要なんだ。好きだ。愛してる。頼む、死なないでくれ」
「面白いこと言うね、佐藤君。でもダメだよ。死ぬんだから」
岬は柵から身を投げる。

佐藤は辛うじて岬をキャッチして抱き締める。
「岬ちゃんは悪くない。悪い奴は他に居る。俺達を苦しめる悪の組織。
奴らの名はNHK。全世界を覆い尽くす悪の秘密結社だ。
岬ちゃんの身の回りに起きる悪い出来事は全部NHKの仕業なんだ!
日本ひきこもり協会(NHK)。佐藤達広をひきこもりにした悪の秘密結社。佐藤はNHKの秘密を話したせいで精神攻撃を受け、苦しみながら叫ぶ。

「世の中で起きる悪い出来事は全てNHKの陰謀なんだ!!」

「NHKって名前が気に入らなかったら好きに呼べば良い。例えば、神様」
海より巨神現る。佐藤にトドメを刺しに来たNHK。佐藤はケータイという名の革命爆弾を手に走り出し、捨て身の特攻を試みる。
「馬鹿だな俺は。好きな女の子の命を繋ぎ止めるためにこんな方法しか思いつかないなんて。あっ“好きな女の子”…なんだ、俺やっぱ岬ちゃんの事が好きだったんだ」
柵を破って佐藤は飛び降りる。

だが、自殺防止用の金網が下に張ってあり佐藤は助かる。佐藤を追い掛けて来た岬が上から覗き込む。
佐藤「何だよ。見んなよ。なに泣いてんだよ」
岬に引き揚げられた佐藤。岬は泣きながら力無く佐藤の頭を叩く。
「死んじゃダメだよ。死なないでよ」
近くにある、岬が中三まで住んでいた家(廃屋)で一夜を明かす二人。

季節は春。山崎は渋々見合いをした相手とラブラブになり結婚するらしい。
「三次元の女の子は最高っす。究極の萌えはやっぱ眼鏡っ子」
柏瞳は出産し城ヶ崎と豪邸に住む。
「佐藤君、元気にひきこもってますか。私の人生“順風満帆”です」
佐藤は警備のバイト。
「皆せいぜい頑張ってくれ。俺も適当にやっていくつもりだ」

夜は三田4丁目公園で岬の「必勝ノート」の受験勉強をみる。岬は大検を受けて佐藤より良い大学に入るのだという。そして新たな契約書を差し出す岬。日本人質交換会。お前が死んだら俺も死ぬぞ。これで冷戦下の核保有国のごとく、死にたくても死ねなくなるという。契約書にサインする佐藤。

『NHK会長 中原岬 会員第一号 佐藤達広』
岬「これで佐藤君も私もきっと大丈夫。NHKにようこそ」

【感想】○
中原岬の自殺を止めようとする佐藤達広だったが、説得に失敗。しかしキャッチする「奇跡」を起こす。さらに妄想のはずのNHKを実体化させる事に成功し、岬の命を救うため身を投げる。転落防止ネットで助かった佐藤は死ぬのを諦め、岬と共に適当に折り合いをつけて生きて行く事にする。結局、何も解決しない。だからこそ死ぬでもなく生きていく。

最終回という事を気にせず、この回単体で見れば結構面白いものがあったが、シリーズ全体の最終回という視点からすれば、力及ばずの観あり。前半の佐藤の行動が有り得ないとか、この番組独自の新たな答えを提示できなかった所、それも含めての「ダメ」括りで終わらせた感じもした。

結局、佐藤自身のひきこもり問題は前回で解決していたようだ。引きこもってられない環境になれば引きこもらないという、答えになってないような答えで。前回の記事で予想した岬のカウンセリング効果についても触れられず…。今回は岬の解決のみに絞っていた。

その岬の解決は良く出来ていた。全て自分のせいだと悲観する岬には、妄想でもいいから他者のせいにする事が(少しは)必要だよ、という答え。岬の心の闇とこれまでの生き方については、#22前回#23で山ほど書いた(書き過ぎてもう書けない)。

そんな岬の長年に渡って蓄積された日本悲観協会(NHK)という暗雲を取り払うには、佐藤の持ち合わせている言葉では通用しなかった。海に落ちていく岬をキャッチするという奇跡の行動と強い抱き締めが必要だった。ここで岬は、神様のような奇跡が自分に起きた事に驚き開眼する。

「いっそ神様を信じられれば、全部神様のせいに出来るのに。そしたら私は悪くないって確信できるのに」
岬の回想セリフが流れ、佐藤の妄想をも信じ始める岬。佐藤の日本ひきこもり協会(NHK)と岬の日本悲観協会、そして神様。自分のせいではないと必死に演じる佐藤が、岬には演技とは思えなくなってくる。

海から現れた巨神は完全な妄想だが、他者のせいだと思う心の表れ・象徴である。それが佐藤だけでなく岬にも見えてしまう。岬の発想の転換と佐藤への共感の表現が巨神。さらに佐藤は演技ではない事を証明するかのように、走り出して柵を破って転落していく(そういえば、N・H・Kにようこそ!のキャッチコピーは“ノンストップひきこもりアクション”だったw)。

だがこれは岬にとっては非常に困る迷惑な行動。折角、自分にも芽生えた転嫁の心を、佐藤の革命爆弾で消されては困る。遺書も無く佐藤が転落すれば自殺か事故か分からず困る。自分の母の転落を見た自分に、もう一度同じ光景は耐えられない。そして奇跡を起こした佐藤が死んでしまっては大変困る。

佐藤の頭を力無く叩く岬のシーンは、牧野由依の声の演技もあってグッと来るものがある。ここは#14冒頭シーンと、セリフも行動も対比になっている。「あの…、死ななくて良かったね」という軽い?言葉に対しての「死んじゃダメだよ。死なないでよ」。佐藤が力任せに殴ろうとするのに対する岬の力無い殴り。怯える岬に対しての佐藤の無抵抗。

季節が変わって、岬と佐藤の立場は逆転し、岬の勉強の面倒を見る佐藤。外に出るのは相変わらず億劫だがバイトする佐藤。岬なりのNHK(日本人質交換会)の契約や「必勝ノート」などを見ると、岬もまだまだ妄想が足りない気もする。でも少しずつ現実にも妄想にも折り合いを付けて生きていくのだという。死ねないなら生きるしかない。

てゆーか、大学中退から4年経っても大学受験勉強を教えられる佐藤ってスゴイ。工事現場警備員より塾講師のバイトした方が良いのでは。

【総評】◎
引きこもりだった佐藤達広がN・H・Kの陰謀に気付き、突然の中原岬のカウンセリング提案によって幕を開けたこの番組。引きこもりを隠すための「逃げ」から様々な人と出会い、再会し、色々な事件や社会的現象に巻き込まれていく。昨年の加藤夏希主演ドラマGO!GO!HEAVEN!は、自殺しようとして成功してしまう物語だったが、N・H・Kにようこそ!は成功すらしない物語で、とことんダメっぷりを描いていた。

シリーズ前半はひきこもり星人と一般人の境界線の無さを強調し、後半は一般人の陥る罠から引きこもりよりもダメな状態を描いた。前半・後半のクライマックスは共に自殺か否かで括ってあり、シリーズ構成がとても巧かった。

声優陣の演技もとても良く、各人物の性格を反映した声になっていた。佐藤役の小泉豊の声が低いとの指摘もあったようだが、あの疲れた感じから退廃的で諦観している様子が良く出ていたように思う。

#1は、やや妄想シーンと佐藤の精神的な症状が強調されすぎていて、初回から引きこもりとは違うとの声もあった。でもテレビだから、と納得できたのはN・H・Kという発想と岬の出現の面白さだった。この回を見た限りでは、岬によって色々な仕事に就かされ失敗したり、岬が戦うヒロインなのかとも思った。

#2がシリーズ最大の鬼門・難関で、ここで視聴を止めた人が多数居たのでは。当ブログへのこの番組記事アクセスも#3以降はガタ落ちしたし。#1での誤った過大な期待の喪失と、ギャグになってない切実な雰囲気が痛々しく、見てられない・辛いとの感想をあちこちで見掛けた。

#3は一転してサービスカット満載。…で喜ぶのは当ブログの趣旨ではないので、現実・仮想、一方向・双方向で小考察してみた。すると突然現れたはずの岬が、極めて妥当な存在にも思えた。

#4はアキバのお勉強。あれだけ妄想する佐藤が架空世界に入れないとか、引きこもり症状は何処へいったのかなどの疑問はあったが、一般化した秋葉原の生態を見せ、境界線の曖昧さを描くというシリーズ前半の試みはこの回から始まっていたのかも。

#5は高校の先輩:柏瞳との再会。社会的に立派に生きている柏の持つ、引きこもりの佐藤よりも深刻な病気。学生:山崎の二次元への傾倒、正体不明の岬のカウンセリングへの失望など。まともな人間はどこにいるのかという主張。

#6は山崎薫の彼女疑惑を通して描く、人を見下す見下されるという考えのダメさ。だったら引きこもりの方が対立を生まないのではとの主張が見え隠れ。

#7は一番のギャグ展開。岬との恋人気分が始まり、岬の行動と目的がますます分からなくなる佐藤。

#8で岬を偽恋人に仕立てて母親と対面。普通とベタで、佐藤も(岬も)普通の人間になれるかもとも思わせた。

#9ではさらに、恋愛感情の芽生えで引きこもりと一般人の差異の無さを強調。それが二次元へと向かったかと思えば、三次元にコロっと豹変する山崎の主張と行動が面白かった。

#10は、この回を根拠にしてシリーズ後半の佐藤の考えを正当化できる結構重要な回。外面・内面での人の判断という意味では意外な名作回でもある。

#11から前半の山場が始まる。柏瞳の心の鬱と佐藤の躁状態が二人を引き寄せる。

#12で明らかとなる自殺オフ会。引きこもり以外の人が陥る死への様々な誘い。楽しい一日を自ら最後の日と定めるメンバー。佐藤が試される時が来た。

#13は前半の山場。各人の思いが吐露され、まさに生きるか死ぬかの状況に。ここで何の力も発揮できなかった佐藤は咆哮する。

#14での後処理の余韻に執筆者は深く感動してしまった。山場からのクールダウンをあれほど見事に描いた作品はそうそう無いのでは。これは原作にもないオリジナル話らしく、この製作陣の力量の確かさにも参った。

#15はダウンしすぎてパワーダウンした回。#16とセットと考えて良い。この回ではネトゲーへの山崎の冷静さが光り、岬の先行き不安を思わせた。

#17はマルチ商法、#18でクーリングオフ。働く小林の陥った罠。それは佐藤達よりも未来のない生き地獄。またもや佐藤は外に出て社会の暗部を見る事になる。

#19はハッピーエンドの一形態を見せた回。結局、この回のパターンを佐藤も踏襲してしまう。だったらこの回は小林兄妹にやらせないで取っておけば良かったのに。

#20は佐藤に多大な貢献をしてきた山崎の、社会への失望と諦観。この回は哲学的で甚く感動してしまった。青春の終わりというか、人が変わらざるを得ない状況とそれに対する気持ちの変化、それでも変わらない不偏のものの存在など、色々と考えさせられた。

#21でいよいよ山崎との別れ。この回は考えさせられた#20とは打って変わって、とにかく雰囲気の出し方で感情に訴えた。この全く違う手法が、いとも容易く出来てしまう製作陣が凄すぎる。

#22は柏との別れで孤立する佐藤と、佐藤を掴まえられなかった岬の孤独。佐藤と岬の不思議な関係と恋愛関係の破綻を同時に解らせた柏とのホテル描写が巧い。決して柏の体の綺麗さに心を奪われないよう(笑

#23で岬は一気に自殺モード。後半の山場が開始。最後の望みを託した新契約を佐藤に蹴られ、引きこもりも脱出した佐藤を見て、岬はこの世への別れを決意する。

そして最終回#24。引きこもりを完全に脱したわけでも、岬とも恋人になったわけでもない佐藤。新たな答えも提示できぬまま終わったシリーズ。逆に言えばこのどっちつかずで曖昧な部分がN・H・Kにようこそ!の面白さを引き出す魅力か。

佐藤が主人公でありながら、実は佐藤を描くのではなく、佐藤を社会を見る眼(スコープ)として使っていた。佐藤という双眼鏡を通して様々な人の立場や心理を見抜かせる。だから佐藤は同じ位置に居て変化しない。よって引きこもりという設定が好都合。

だけどちょっとだけ佐藤も変化する。住んでいた三田ハウスとは違うアパートで暮らす。その三田ハウスは修繕工事中。建て替えでなく建物の延命である修繕。佐藤にも死と再生はなく、延命で生きていくのだ。
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